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名古屋高等裁判所 昭和38年(ネ)531号 判決

名古屋市北区水草町一丁目六〇番地

控訴人

株式会社 高木染工場

右代表者代表取締役

高木光雄

右訴訟代理人弁護士

寺沢弘

被控訴人

名古屋東税務署長

中井政一

右指定代理人大蔵事務官

佐藤辰男

下山善弘

被控訴人

名古屋国税局長

大村筆雄

指定代理人

名古屋法務局訟務部付検事

水野祐一

法務事務官 沢真澄

大蔵事務官

佐藤辰男

下山善弘

右当事者間の昭和三八年(ネ)第五三一号法人税更正決定等取消請求控訴事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人名古屋東税務署長が、昭和三五年六月三〇日付でなした更正処分における控訴人の昭和三三年九月一日より昭和三四年八月三一日にいたる事業年度の課税所得額中六八万三、九六二円、および同年度の法人税額中三一万三、三一〇円を各取消す。被控訴人名古屋東税務署長が、昭和三五年一〇月一四日付でなした再調査請求に対する決定は、右更正処分を取消した部分を除き、これを取消す。被控訴人名古屋国税局長が、昭和三六年一〇月一〇日付でなした審査請求に対する決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用および書証の認否は、左記のほか原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

(控訴代理人の陳述)

一、昭和三四年二月一四日債務会社の第一回債権者会議が開かれた当時、債務会社の貸借対照表によれば、総債権者に対し約四〇%の配当が可能の状態であつた。

二、訴外豊田通商株式会社保管にかかる商品一〇〇万円余およびその系列下にある紡織機器研究所保管にかかる商品一一〇万円余は債務会社が支払停止状態になつたことを知つた直後、急拠引揚げられたものであつて、留置権はなかつたものである。

三、控訴人は債務会社に対し双方のために商行為たる行為によつて生じた加工賃債権を有し、債務会社より委託を受けた商品約一五〇万円位を占有していた。そこで控訴人は右商品を商法第五二一条により留置していた。他方債務会社が破産したとしても、破産法第九三条、第九二条により控訴人には別除権があり、右商品に関する限り優先弁済を受けることができ、かつ残債権についても一般債権として配当加入することができたはずである。とすれば債権者委員による私的な破産手続においても亦然りであって、控訴人には右商品に関し別除権者として優先弁済を受けられる立場にあつた。そこで控訴人は右商品によつて担保されている債権の一部弁済としてその商品を引取つたのである。これを目して代物弁済ともいえるし、あるいは担保直流ともいえるのである。そこで同年三日二日右商品によつて満足を得られなかつた残債権については、他の一般債権者が控訴人の顧客先であるという関係もあるので、一般債権としての配当を要求しないで放棄したである。この時点における残債権についての配当見込額は一〇ないし一五%であり、かつ将来債務会社の重役が保証してくれるやもしれない状態であつた。

四、これまでの貸倒れに関する税務当局の判定基準(基本通達「一一六」)および諸判例(静岡地裁三一(行)六昭和三三・九・五判決大阪地裁昭和二四・九・一二法人税法違反被告事件判決、同地裁昭和二五・一二・一一所得税法違反被告事件判決、大阪地裁三一(行)七昭和三三・七・三一判決)に従えば一部でも回収可能のものがあるときは貸倒れと認定され得ないと論じている。原判決はこれらの取扱いや判例に反している。更に税法上の損金の取扱いは、「法人税基本通達五二」および東京高裁二六(ネ)一二二五昭和二七・二・二一判決、大阪高裁昭二四・八・七法人税法違反被告事件判決等の諸判例に従い、資本の減少、利益の処分以外において純資産の減少となるべき一切の事実が発生したとき損金とする発生主義をとつているのであるから、控訴人が債権放棄をなした日である昭和三四年三月二日現在をもつて貸倒れとなるかならないかを判定すべきである。そうとすれば、貸倒準備金補填漏れ金六八万三九六二円として所得金に加算した被控訴人税務署長の更正処分、再調査請求に対する決定および被控訴人国税局長の審査請求に対する決定はいずれも違法であるから取消さるべきである。

五、被控訴人は控訴人の債務会社に対する一部債権放棄につき昭和二九年七月二四日付国税庁長官通達第一の二の4後段を適用して処分したと主張するけれども、右通達は本来の意味の貸倒れではないが、任意的に貸倒れとして処理しうることを定めたものに過ぎず、貸倒れの認定判断の基準を定めたものではない。仮に右通達を適用しうる場合であるとしても、控訴人の場合は金融機関のあつせんはなかつたのである。

(被控訴代理人の陳述)

一、控訴人の右一、二の主張事実は否認する。昭和三四年二月一四日現在債務会社が約四〇%の配当可能の状態にあつたということはない。控訴人も従前は一割ないし一割ないし一割五分程度と主張していたのである。訴外豊田通商株式会社の商品留置に関して問題が起つたことはなく、債務会社が所有する在庫品として貸借対照表に計上した右訴外会社保管中の商品一〇八万一、四六〇円は右訴外会社に返品又は売渡済のものを誤つて計上されたものである。控訴人は商事留置権を行使して優先弁済を受け得た以外の残額について配当要求をなしうる旨の控訴人の主張は理由がない。

二、本件処分は、昭和二十九年七月二四日付直法一-一四〇直所一-七七国税庁長官通の第一の二の4後段「債務者の弁済の困難な事情に基づき、債権の切換、たな上げ、年賊償還等が当事者間の契約により定められた場合に当該契約が金融機関のあつせんにかかる場合等その内容が真実であることを確認する場合においても同様とする」とあるのを適用して行つたもので、基準なくして恣意的に行つたものではない。

三、控訴人引用の判例はいずれも原審の判断と相反するものではなく、かかる判例があるからといつて本件の場合を貸倒れでないということはできない。

(証拠)

控訴代理人は、当審証人犬飼幸男同三浦弥之助の各証言を援用し、乙第一号証の成立を認めた。

被控訴代理人は、乙第一号証を提出し、当審証人竹内正礼の証言を援用した。

理由

当裁判所の判断によるも、控訴人の本訴請求は失当であるから棄却すべきものと考える。その理由については、左記のとおり補足するほか、原判決の説示するところと同じであるから、原判決の理由記載をここに引用する。

一、当審証人犬飼幸男同三浦弥之助の各証言中原判決の認定に反し控訴人の主張にそう部分はにわかに措信し難く採用することができない。

二、控訴人のいわゆる加工賃の値引が税法上被控訴人等主張のように債権の貸倒にあたるか否かについては、その行為の外形にとらわれることなく実質的経済的な観点から判断すべきものであるが、本件において控訴人が債務会社に値引したのは、もつぱら債務会社の資力喪失によるものであること原判決引用の各証拠によつて明なる以上、それについて控訴人の会計処理上、いかなる整理科目を用いられていようとも税法の解釈上は債権の貸倒に当るものと認むべきである。

以上の次第で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 成田薫 裁判官 神谷敏夫 裁判官 丸山武夫)

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